『あんぱん』朝田家三姉妹、今田美桜×河合優実×原菜乃華には“朝ドラ”が詰まっている

朝ドラことNHK連続テレビ小説『あんぱん』第7週「海と涙と私と」(演出:橋爪紳一朗)では、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の心の距離が離れていく。
夏休み、のぶも嵩も御免与町に帰省した。電話口でのぶが「たっすいがーのどあほ!」と嵩を怒鳴って以来、気まずいふたり。メイコ(原菜乃華)と一緒についてきた健太郎(高橋文哉)は協力してのぶと嵩を仲直りさせようとする。
一時はさわやかな海の力でうまくいきかかったものの、家族の一員のような豪(細田佳央太)を戦地に送り出し、妹・蘭子(河合優実)の悲しみを目の当たりにしているのぶと、東京・銀座で文化やファッションの最先端に触れている嵩では、温度差がありすぎた。

銀座で嵩が買った真っ赤なハンドバッグをもらったのぶは、戦地の兵隊さんのことを考えたらこんな派手で贅沢ものはもらえないと拒む。
嵩も譲らず、美しいものを美しいといえない世の中に疑問を呈し、のぶとの仲は決定的に決裂してしまった。ふたりの対立する場所が、シーソーの空き地であるところに注目したい。どちらかが上がればどちらが下がる。たいてい傾いていて、なかなか平らにならないのがシーソーだ。
ほんとは、ふたりとも仲良くしたいはずなのに。それぞれの思いが同じ分量になって平らになる日はくるだろうか。
仲直りできないまま嵩が御免与町を出ていったとき、駅で寛(竹野内豊)がいまはふたりの道が平行線ながらいつか交わるときがくるかもしれないと慰める。
『あんぱん』では徹底してどちらかが正しいというふうにジャッジしない。のぶの考え方も嵩の考え方も間違っていない。それぞれの道をそれぞれのペースで進めばいいと寛は相変わらず人間ができている。

女子師範学校の黒井(瀧内公美)も単なる朴念仁ではなく、師範学校を卒業して結婚したものの、子どもができず離縁された過去を持っていた。それでいまはお国のためにがんばる女性たちを育成することにすべてを注いでいるようだ。
黒井は同情するに値する悲しみを抱えているけれど、だからといって、機械のように愛国少女を量産していいわけではない。当時は当たり前だったこととはいえ、黒井の教育方針が正しいとは決められない。
嵩が嵩子と女性のふりをして送ってきていた手紙に関しては黒井は大目に見てくれた。鬼の目にも涙、武士の情けを発揮した黒井だが、お国の決めたモットーを淡々と生徒たちに唱和させ続ける。そこには感情がいっさい見えない。
お国のために働いている黒井だが、子どものいない女性が差別される暗黙のルールはお国の発する空気によるものである。その矛盾に気づいてほしい。
第8週ではのぶが地元で教師となる。今度はのぶが愛国少女を教育することになるのだが、嵩が疑問に思ったような行動をとるのだろうか。それとも……。