松田聖子、45周年ベスト盤が紡ぐ“青春” 槇原敬之提供曲に込められた想い、色褪せない名曲群を読み解く

 2025年にデビュー45周年を迎えた松田聖子が、6月4日に45周年を記念したオールタイムベスト『永遠のアイドル、永遠の青春、松田聖子。〜45th Anniversary 究極オールタイムベスト〜』をリリースする。本作に先駆け、デビュー日である4月1日には45周年を記念するオールタイムベストから、槇原敬之プロデュースの新曲「Shapes Of Happiness」を先行デジタルリリース。さらに、5月14日にはその第2弾となるジャズのスタンダード楽曲「Stardust」のカバーの配信がスタートしており、本曲の日本語訳詞は松任谷由実が担当している。過去に“呉田軽穂”名義で多くの楽曲を聖子に提供し、数々のヒット曲を生み出してきた松任谷とのタッグが、約10年ぶりに実現された形になる。

 本稿では2025年リリースの松田聖子作品の中から新曲、新録を中心にピックアップし、改めて彼女の歴史と魅力、そしてそのフォロワーが出てこない唯一無二の存在感について考察していきたい。

松田聖子×槇原敬之が描く新しい“Only One”のかたち

 槇原が作詞・作曲を手掛けた「Shapes Of Happiness」は、イントロから鳴り響くホーンやストリングスなどゴージャスなアレンジ、一音一音を大事にしたしなやかで力強さのあるメロディ、ミドルテンポながら跳ねるようなベースラインなど、槇原敬之の真骨頂が満載の楽曲だ。キーは最高音でも聖子にとっては軽々と歌える設定で、サビ以外のメロディは彼女にとっての中低音域が続く。レンジの高低差があまりないぶん、淡々となりがちになりそうな1曲だが、そこを松田聖子は丁寧な発音で歌詞をしっかり伝えるように歌唱している。そんな中でも言葉の母音のトーンで多彩なニュアンスを見せている。フレーズ中の短いトーンで、クレッシェンドとデクレッシェンドを自然にかけたり、“わ”を“ぅわ”と発音したり、フレーズ終わりの少し長いトーンを母音を二度発音して抑揚をつけるなど、実に細かく表情を添えている。一曲を通して声量がほぼ一定なのも、言葉を大切にした証拠だと思うが、一定にしたことで松田聖子の“声質”の最大の魅力である透き通るような爽やかさと柑橘系のようなフレッシュさを備えた歌声が、平メロの途中など意外なところでいきなり登場してくるため、そこがこの曲のフックになっている。

松田聖子 / Shapes Of Happiness

 歌詞にも注目したい。槇原はこれまで幾多のアーティストに楽曲を提供してきたが、中でもSMAPの「世界に一つだけの花」(2002年)が有名だろう。元々アルバム収録曲だった一曲だが、後にシングルカットされている。これは当時にとっては非常にレアなケースだ。つまり、それほど人々の心を掴んだ名曲だったということだ。店先の花をモチーフにし、どの花も綺麗な花を咲かせることができる、個々の個性を認め合うことが大事だと歌った「世界に一つだけの花」の中でも最大のパンチラインとなっている、〈No.1にならなくてもいい/もともと特別なOnly One〉というフレーズに対して、様々な解釈を呼びちょっとした社会現象にもなった。

 既出の“店先の花”に目を向けた「世界に一つだけの花」に登場する〈僕ら〉という自我に対して、店先の花がレスポンスするように“Only One”としての在り方を提示しているのが「Shapes Of Happiness」の歌詞だ。〈咲いてる〉〈可憐な花みたいに〉というワンフレーズで“花”を想起させること、そして〈あなたは誰とも違う 私も誰とも違う 幸せの形もそう それぞれ違ってもいいの〉という自己肯定のメッセージ性などが、「世界に一つだけの花」と重なってくる。“花”というモチーフを、花そのものとして描写する部分と、擬人化して使う部分が織り込まれているのも両極の共通項だろう。パッと華が咲いたような明るさと花そのものが持つ生命力を、聖子は「Shapes Of Happiness」の歌唱で見事に表現している。その表現力も相まって、「Shapes Of Happiness」もまた、「世界に一つだけの花」のように時代や立場を超えて多くの人の心に届く一曲になっていくのではないだろうか。

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