連載「音楽機材とテクノロジー」第15回:照井順政
『ジークアクス』や『呪術廻戦』などの劇伴を手掛ける照井順政に聞く、「コンセプト」を作ることの重要性と機材の変遷

4月より放送されるテレビアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』。『ガンダム』という超巨大IPの最新作となる今作で、劇伴音楽を手がけるのが照井順政だ。
2000年代末~2010年代前半にかけてはハイスイノナサという前衛的なアプローチのロックバンドのギタリスト兼コンポーザーとして活動、2010年代後半にはアイドルグループ・sora tob sakanaでプロデュース能力の確かさを刻み付けた。そして2021年、テレビアニメ『呪術廻戦』の劇伴で一躍シーンに躍り出たのである。
マス(=数学的な)ロックとも称される緻密な音楽性の印象から、計算ずくで現在のキャリアを築いてきたようにも思える照井は、驚くほど愚直に変化する状況に応じて「適応してきた」旨を語る。その根底にあるのは「そもそも音楽という表現手段にこだわっていない」というマインドと、それと表裏一体とも言える「コンセプト」を作ることへの探究心だ。生成AIの普及によって「人間ならではの創造性」が問われる時代においても、大切な考え方が多く含まれているように思えるインタビューとなった。
キャリアの変遷と、機材の変化
――照井さんはもともとハイスイノナサというバンドをメインに活動されていて、その後アイドルのプロデュースを始められたと思うのですが、その過程で機材面での変化はありましたか?
照井:最初に思いつくのは、アンプシミュレーターの「Kemper(KORG)」ですね。アイドルに楽曲提供するようになる前の段階で、いろんなバンドのサポートをしたり、新しくsiraphというバンドを始めたりと、異なる環境で音を出す必要が出てきたんです。
Kemperはギタリストの間では定番のシミュレーターで、これ1台持っていけば、どんな現場でも同じ音作りができる。ライブごとに重たいエフェクターボードを持ち運んで、現場によって組み替えて、ライブが終わったらまた片付ける……という工程がなくなったのは大きかったです。
その後楽曲提供の仕事が増えるにつれ、バンドサウンド以外の音を扱う機会も増えたので、DTM環境を強化していきました。バンド時代もDAWは使っていましたが、あくまでデモ作りのためで、「最終的にはバンドサウンドに差し替えるし、適当でいいか」くらいの感覚でだったんです。その後、PC内で商業作品として恥ずかしくないレベルの音を作れるようにするために、徐々に機材を揃えていったという流れでした。
DAW自体も、そのタイミングでPro ToolsからLogicに乗り換えました。PCもWindowsからMacに変更しましたね。現在もメインはLogicで、PCには一応Pro Toolsも入れていますが、あくまで他の作業者とのデータのやり取り用という感じです。
Logicに移行して最初に買った音源は「Komplete(Native Instruments)」だったと思います。とりあえず「一通り色々な音色が入っているものがあると良さそう」という理由でした(笑)。
――劇伴の仕事を始めてから、プラグインの数もどんどん増えていった?
照井:プラグインに関しては今や「買うのが趣味」みたいになっています(笑)。作りたい音のビジョンだけはあるので、自分でリサーチしたり、「こういうことが最終的にできればいいんだけど」みたいな感じで友達に相談したりして、「だったらこういうものを入れたらいいよ」って聞いたりしながら増やしています。
あと、機材ではないんですが、スタジオ兼自宅に防音室を設置して、生ギターや歌、バイオリンや管楽器も宅録できる環境になったのは大きく変わったところかなと思います。
Kemperの導入でギターのライン録りは以前からできましたが、アコギはどうしても外で録る必要がありました。現在の環境では、商業作品でも宅録で完結できるようになったので、時間帯を問わず録音できるようになったのが大きな変化ですね。
――以前のインタビューで、「ギターはアイデアが思いついたときにすぐ弾けて、インターフェースとして優秀」だとおっしゃっていました。今もその考えは変わっていませんか?
照井:今でも変わっていないですね。やっぱりギターは「すぐにアイデアを形にできる」のが強みです。寝る前にちょっと弾いてiPhoneに録音しておくということもできるし、外にも持ち出しやすい。
自分は「ギターがどうしようもなく好きで、音楽といえばギター第一!」というタイプではないんです。ただ、一番自分の演奏の表現力が高い楽器がギターなので、結果的に使うことが多い。そういう意味でも、便利な道具という感覚で見ていると言えます。