Indie Game Stories:第2回
安らぎと発見に満ちた「ウッド・ワイド・ウェブ」の世界へとプレイヤーを誘う――パズルADV『The Guardian of Nature -命をつなぐ者-』開発スタジオインタビュー

『The Guardian of Nature -命をつなぐ者-』(以下、The Guardian of Nature)は、美しい手描きアニメーションが特徴の、自然のつながりをテーマとしたパズルアドベンチャーだ。スイスのインディゲームスタジオInlusio Interactiveが開発を手掛け、エピソード1はすでにSteamで配信中。日本向けのパブリッシングは、ゲームマーケティング会社Nextingが担当している。
本作について、今回は開発会社のInlusio Interactive共同創業者であるロビン・ブルガウアー氏、ロバート・ファン・ローデン氏にインタビューする機会を得たので、そちらの模様をお届けしよう。

美しき自然界。その複雑さや調和のなかに存在する「魔法のような魅力」へと迫るには、「視点を変えること」が重要であると説いた開発陣。そうした発想を本作の物語・システム・アートへと落とし込んでいったプロセスについても、こと細かに語ってもらっている。(編集部)
――はじめに、スタジオのご紹介と、設立の経緯やチーム構成について教えてください。
ロビン・ブルガウアー氏(以下、ロビン):Inlusio Interactive はスイス・チューリッヒを拠点とするインディーゲームスタジオです。私たちは、ゲームやVR映画、インタラクティブなグラフィックノベルなど、多様なインタラクティブ作品を手がけており、世界中のクリエイターと協力して「心に残る物語体験」を生み出しています。
Inlusioを立ち上げたのは、私たちのバックグラウンドである「映画」と「ゲーム」を融合させ、ストーリードリブン(物語主導)なインタラクティブ作品をつくりたいという思いからでした。私は15年以上にわたり、ドキュメンタリー映画のプロデューサー・監督として活動してきました。一方で、ロバートは同じく15年以上ゲーム業界で経験を積んできています。感情に訴える映画的な語りと、ゲームならではの没入感や遊び心を組み合わせたかったのです。
ロバート:スタジオ内では、私とロビンがプロデューサー兼ゲームディレクターとしてプロジェクトを立ち上げています。自分たちが本当に伝えたいテーマをもとに企画を進め、資金調達を行い、世界観やアート、ゲームデザイン、開発などをひとつにまとめ上げていくのが私たちの役割です。その過程では、スイス国内だけでなく、イギリスやオーストラリアなど、世界各地の素晴らしいクリエイターたちと一緒に制作を進めています。
――リリースが目前に迫る『The Guardian of Nature』について、ゲームの特徴を教えてください。
ロバート:『The Guardian of Nature』は、私たちInlusioとして初めて手がけるゲームタイトルです。何年もかけて作り上げてきた作品なので、こうしてみなさんに届けられることをとても楽しみにしています。スタジオとしても非常に大きな節目となるプロジェクトです。
本作は、探索とパズルを組み合わせたアドベンチャーゲームです。すべてのアートが手描きイラストと手描きアニメーションで制作されているのが特徴です。プレイヤーは、植物学者のヘンリーとなって、体のサイズを自在に変えながら、地上や地下の自然を探索します。
私たちは、心安らぐ「コージー」(※1)な雰囲気を大切にしつつ、往年のポイント&クリック・アドベンチャーが好きな方にも楽しんでもらえるような作品を目指しました。また、大人と子どもが一緒にプレイできるような「家族で楽しめる体験」としても届けたいと考えています。
※1 コージー(cozy):居心地のよい、くつろいだ、親しみやすいといった意。

――本作のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。着想のきっかけとなったモノ・コトがあれば教えてください。
ロビン:本作の最大のインスピレーションは、「自然界はすべてがつながっている」という事実にあります。特に私たちが魅了されたのは、植物や木々が地下でつながり、情報や栄養をやりとりする「ウッド・ワイド・ウェブ」と呼ばれる菌糸ネットワークの仕組みです。
これはとても神秘的で、美しく、そして科学的にも重要なシステムですが、多くの人々にはあまり知られていません。このゲームをとおして、最小の菌糸から最大の樹木までがつながり、互いを支え合っているという自然のしくみの“魔法”を、プレイヤーのみなさんに感じてもらえたらと思っています。
ロバート:企画当初は、「自然の美しさや色彩の豊かさ」を伝えることが主なテーマでした。実際、今のゲームにもその要素は色濃く残っています。
私たちは、リサーチを通して“まだ知られていないけれど非常に重要な要素”を見つけていくのが好きで、「ウッド・ワイド・ウェブ」の概念に出会ったとき、すぐにその世界観に惹き込まれました。
最近では、ナショナルジオグラフィック協会が、植物相(flora)や動物相(fauna)に加えて、「菌類相(funga)」も地球の生物界の一部として正式に認めるようになりました。
にもかかわらず、菌類の王国は多くの人にとってまだなじみがなく、その生態系における重要性は十分に知られていません。
だからこそ、私たちは「足元に広がる未知の世界」をゲームとして掘り下げることにしました。

ロビン:『The Guardian of Nature』は、菌糸という地下ネットワークが地上と地下の命を支えているという、寓話的な物語を描いています。このゲームを通して、自然というものが「バラバラの要素」ではなく、「深く結びついたシステム」であるということを感じてほしいと考えました。
その世界観を、魔法のような物語、自然にインスパイアされたパズル、癒しの音風景、そして穏やかな空気感で表現しています。
私たちの目的は、単にゲームとして楽しんでもらうことだけでなく、「自然の不思議さやつながり」に対する気づきや驚きを届けることです。
――主人公の「ヘンリー」が体のサイズを自由に変えることができる、というアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。
ロバート:「ヘンリーがサイズを変えられる」というアイデアは、ゲームのテーマをプレイ体験に落とし込むために生まれました。
自然を理解するには、時には「視点を変える」ことが大切です。
体を小さくすることで、アリの巣や地下に広がる生命の営みといった、普段見えない小さな世界も探索できるようになり、「大きな自然」と「小さな自然」の両方を体験できるようにしています。
ロビン:このサイズチェンジの仕組みは、「視点を変えることで理解が深まる」というメタファーでもあります。
それは好奇心を育てる行為であり、本作の核にあるテーマでもあります。ヘンリーが「命の樹」を目指して旅をする中で、プレイヤー自身も自然の奥深さに触れていくことができるのです。
――開発初期には、まずどのようなことに取り組みましたか。
ロビン:最初の段階で特に注力したのは、「ゲームのビジュアル世界をどのように表現するか」という点でした。私たちにとって、プレイヤーがこのゲームの世界に入り込み、心地よさを感じられるような、“ポジティブで魔法のような”ビジュアルトーンを初期段階で定めることがとても重要だったのです。
自然が美しいだけでなく、その複雑さや調和の中に“魔法のような魅力”があることを伝えられる雰囲気を目指しました。
特に、本作のアートディレクターであるクロエ・ジャクソンと一緒に制作できたことは、私たちにとって非常に幸運でした。彼女は、ゲーム内のすべての要素を手描きイラスト・手描きアニメーションで制作してくれており、その繊細な描写力とビジュアルでのストーリーテリングのセンスによって、『The Guardians of Nature』の世界が“親密で魔法のような空間”として生き生きと描かれています。
彼女の仕事は、ゲームが持つ感情的・美的なインパクトの中心にあります。

――本作の世界観やゲームシステムを、どのように構築していったのでしょうか?
ロバート:ゲームの世界観は、何年もかけて少しずつ形作られていきました。私たちは日々の読書やリサーチ、他のゲーム作品からインスピレーションを受け、それを積み重ねていったのです。ビジュアル、ストーリー、ゲームプレイ、そして科学的な要素がすべて一体となるまでには長い時間がかかりました。
制作のプロセスでは、まずスケッチを描きながらゲーム世界の構造や流れを可視化していきます。現在では、何百枚にもおよぶコンセプトスケッチやアイデア画が蓄積されており、その一部がゲーム内のシーンやパズルとして形になっています。
――開発に際しての成功体験や、苦労したエピソードなどについて教えてください。
ロバート:最も大きな課題は、「何をゲームに盛り込み、どう全体を一つの物語としてつなげるか」という取捨選択の部分でした。
しかも本作では、すべてが手描きで作られています。この手法は、ゲームに独自の温もりと魅力を与えてくれる一方で、制作には非常に多くの時間と手間がかかります。すべてのフレーム、すべての細部にまで細やかな注意が必要ですが、それだけの価値があると信じています。
ロビン:そうした中で、2023年のGame Developers Conference(GDC)で初めてゲームを公開し、プレイヤーから直接フィードバックを得られたことは非常に重要な瞬間でした。
何がうまく機能しているのか、何を人々が気に入ってくれているのか、逆に改善が必要な点はどこか——それらを確認できたのです。
さらにその年、2023年の「Wholesome Direct」に参加し、本作が初めて一般に公開されました。本作のような「カジュアルで、優しく、美しく、物語性のあるゲーム」を愛するコミュニティに紹介する場として、まさに理想的な舞台でした。
――使用ツールやエンジンなど、具体的な制作フローについても可能な範囲で教えてください。
ロビン:『The Guardians of Nature』はUnityを使用して開発しています。コアチームは非常に小さく、プロデューサー兼ゲームディレクターである私たち2人に加え、デザイナーのクロエ・ジャクソン、ゲーム開発を担当するエイドリアン・シュトゥッツ、音楽を手がけるケイト・ミラーの5人で構成されています。
制作の流れとしては、まず私たちディレクターがFigmaやGoogleドキュメントなどのコラボレーションツールを使いながら、ステージの構成やパズル、物語やギミックのつながりを設計します。
その後、アートディレクターのクロエにブリーフィングを行い、手描きのアセットとアニメーションを制作してもらいます。アート素材が完成したら、それをゲームに統合して、インタラクションの構築を進めていきます。
音楽とサウンドデザインは、各シーンの雰囲気やテンポに合わせて、ゲームの進行と並行して進められます。
このように、本作はチーム全員が密に連携し、それぞれの役割がゲーム体験全体に貢献する形で作られているのです。

――日本展開にあたって意識していることや、楽しみにしている点があれば教えてください。
ロバート:正直に言うと、私たちにとって「日本でゲームを出すこと」はずっと夢でした。
だからこそ、『The Guardians of Nature』を日本語対応でリリースできるというのは、本当に特別なことなんです。
日本のプレイヤーのみなさんが、私たちの描いたビジュアルの世界や雰囲気、そして物語をどう感じ取ってくれるのか、とても楽しみです。心から、このゲームが日本のプレイヤーのみなさんに響いてくれることを願っています。
――日本でインディーゲームを楽しむプレイヤー層にはどのようなイメージがありますか?
ロビン:うーん、それは簡単な質問ではないですね(笑)。というのも、実は私たち2人とも、まだ日本を訪れたことがないんです。ですが……!
日本のインディーゲームプレイヤーのみなさんは、「カラフルで想像力あふれる物語」、そして「どこか特別でユニークなストーリー」に対して強い関心を持っている印象があります。魔法のようで、感情に訴えかける体験に対しても、寛容で前向きな文化があると感じています。
だからこそ、私たちは「意味のある何か」を日本のみなさんに届けられたらと願っていて、とてもワクワクしながらも、ちょっぴり緊張しています。
――日本のプレイヤーにどのような体験を届けたいですか?
ロバート:魔法のような、不思議と驚きに満ちた世界へプレイヤーを迎え入れたいと思っています。そして、まるでおとぎ話のような体験をお届けしたい。
プレイが終わった後も、ふとしたときに思い返してしまうような、そんな優しい驚きの旅になってくれたらうれしいです。
――ゲームクリエイターとして影響を受けたゲーム作品について教えてください。
ロバート:僕はゲームボーイとスーパーファミコンを遊びながら育ちました。いまだに『マリオ』シリーズをプレイすると元気になれます(笑)。あのゲームもキノコを“パワーアップ”に使っていますよね。もしかすると『The Guardian of Nature』に通じる何かがあるのかもしれません(笑)。
それから、家にはアミーガというパソコンがあり、『モンキーアイランド』のようなポイント&クリック型のアドベンチャーゲームが大好きでした。ああいったアドベンチャーゲームは、物語や世界観、そして謎解きを通じて築かれる環境とのつながりが命なんです。
『The Guardian of Nature』にも、そういった土台がしっかりと根付いています。
最近では、『Machinarium』や『Samorost』、『Limbo』『Inside』『Lost in Play』といった作品の雰囲気やストーリーテリング、世界観の構築力にとても影響を受けています。
――ゲーム開発のなかで大切にしている考えかたについて教えてください。
ロビン:大切にしているのは、「オープンであること」と「好奇心を持ち続けること」です。
多様な視点を受け入れ、尊重することで、意味のある物語は生まれると信じています。好奇心は新しいアイデアの発見を後押しし、思いもよらない結びつきを見つけ出してくれる。
そしてオープンマインドであることで、ユニークなアイデアに出会える空間が生まれるんです。

――Inlusio Interactiveが拠点を置くスイスのインディゲーム業界は、どのような状況にあるのでしょうか?
ロバート:インディーゲーム開発者は、まさにゲーム業界の核だと思っています。とても活気があって、創造性に満ち、そして今まさに成長中の分野です。
スイスでは、インディーゲームへの注目がますます高まっています。政府もゲーム産業の「文化的・経済的な可能性」に気づき始めていて、支援や認知が広がっています。教育プログラムの整備や、他業界からのクリエイター流入もあって、今はまさに面白い変化の真っただなかです。
この成長するコミュニティの一員でいられることを、とてもワクワクしています。
――今後、挑戦してみたいジャンルやテーマがあれば教えてください。
ロビン:はい、実はすでにふたつの新しいプロジェクトに取り組んでいます。『The Guardians of Nature』と同様に、どちらも「社会的なテーマ」をインタラクティブなストーリーテリングで探求する作品です。
ひとつは、第二次世界大戦中のレジスタンス(抵抗運動)を、ひとりの子どもの視点から描いたビジュアルノベル・アドベンチャー。もうひとつは、平和構築をテーマにしたアニメーションVR作品です。
どちらの作品も、プレイヤーが深く没入し、ハッと考えさせられるような体験を目指しています。私たちは、「意味があり、手に取りやすく、心に深く響くかたちで重要なテーマに向き合える」——そんなインタラクティブなストーリーテリングに情熱を注いでいます。
――最後に、プレイヤーや読者に向けてメッセージをお願いします。
ロバート:『The Guardians of Nature』に興味を持ってくださった日本のみなさん、本当にありがとうございます。こうして私たちのゲームに興味を持っていただけること自体が、とても光栄でうれしい限りです。
ぜひみなさんの感想やご意見を聞かせてください。心から楽しみにしていますし、それは私たちにとって非常に貴重なものです。
そして、私たちのゲームを日本に届ける後押しをしてくれた日本のパブリッシャー、Nextingにも心から感謝しています。この夢を実現できたのは、彼らの支えがあってこそです。『The Guardians of Nature』を日本に迎えてくださり、本当にありがとうございます。

祖父母と古いアルバムをめくったあの体験をゲームに ナラティブパズル『インスタントメモリー』開発スタジオインタビュー
『インスタントメモリー』は、写真を通じて家族の物語をつなぐナラティブパズルアドベンチャーだ。すでにSteamにてデモ版が配信中の…