芳根京子の演技はなぜ“本物”なのか? 『めおと日和』なつ美の“二面性”に惹かれる理由

芳根京子の演技はなぜ“本物”なのか?

 木曜日の夜に大旋風を巻き起こしている『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)。物語がそろそろ終盤に差し掛かっていることを信じたくないのが、正直なところだ。

 本作が地上波プライムタイム連続ドラマで初のレギュラー出演となった本田響矢への注目度が上がっている一方で、主演を務める芳根京子の技量の高さにも注目したい。芳根がなつ美として魅せるリアクションは、ピュアでかわいらしいのに、決してあざとくなく、嫌味に感じない。この絶妙なバランス感覚は、一体どういう理屈で成り立っているのだろうと、なつ美の表情を観るたびに驚かされる。

 本作は、西香はちが漫画アプリ『コミックDAYS』にて連載中の同名漫画が原作。現在第8巻まで刊行されており、いくつかの話数が端折られているものの、おおよそ第5巻までの内容がドラマ化されている。原作が漫画ということは、各シーンで登場人物たちのリアクションや表情、テンションの正解がイラストで提示されているということだ。俳優が演じるときに、イラストのモノマネになってしまったり、そうでなくともイラストに寄せるような芝居になってしまうこともあるだろう。

 しかし、なつ美を演じる芳根からはそういったものが一切感じられない。“この場面でこの表情をしなければならない”という狙いが全くないように見える。今、目の前で起きたことにリアクションした結果、こういう反応になったというリアルさが感じられるのだ。例えば、第6話で瀧昌(本田響矢)に「私にはもったいない女性とご縁をいただき、大変感謝しています」と言われた時のリアクション。原作では、顔を赤らめて瀧昌をじっと見つめるなつ美が描かれているが、芳根は照れたように口を引き結び、目線を下げて微笑むような表情を見せる。原作の表現の方が分かりやすい表情ではあるが、ドラマとして観る上では芳根の表情の方がより自然な人間の反応に見える。誰が見ても分かるように記号的に表される漫画のイラストを、数秒間での表情の変化やふとした視線の変化なども含めることで生身の人間のリアルなリアクションに落とし込んでいるのだ。原作と脚本をインストールした上で、芳根の中から出てきた素直なリアクションを主体としてなつ美が表現されているからこそ、唯一無二の愛らしさが感じられる。

 第3話で瀧昌を送り出すことへの寂しさが溢れ出してしまう場面も印象的だった。早口で捲し立てるように喋りごまかすだけでなく、自分の中の苦しさをどうにか抑えようとしている表情とそれでも溢れてしまう涙から、ただただ寂しいというなつ美の感情が痛いほど伝わってくる場面だ。原作では笑顔でごまかしていたなつ美からポロリと涙が流れてしまう場面となっているが、芳根は涙を懸命に我慢しつつ、それでも溢れてしまうという時間経過による変化も含めて表現していた。その瞬間しか描けないイラストにはできない感情表現を、芳根が自分の身体を使って丁寧に体現していることが分かる。

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