これはもはや『ジョジョ』の映画だッ! 『岸辺露伴は動かない 懺悔室』で変化した“枠組み”

『岸辺露伴 懺悔室』は映画『ジョジョ』だ

 『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで知られる荒木飛呂彦の漫画『懺悔室』を原作とし、高橋一生が主演を務める映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が、現在公開中だ。

高橋一生「10年経って観ても面白いと思える作品に」 『岸辺露伴は動かない』3期での変化

高橋一生が主演を務めるドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の新シリーズが、12月26日から2夜連続で放送される。  20…

 『懺悔室』はもともと、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の1997年30号にて行われた、連載作家陣が“連載中の作品とは別”の読み切りを掲載するという企画の中で、荒木が描いたエピソードである。岸辺露伴が「実際にこの耳で聞いた」話として展開され、作中での露伴は基本的に座っているだけ。その後、短編集、ノベライズ、連続ドラマ化など多岐に渡り展開されていく『岸辺露伴は動かない』シリーズを象徴する、まさに原点である。

 本作は、劇中に明確な章立てなどは無いものの、原作に限りなく忠実な前半部と、完全オリジナルの後半部によって構成されている。また、邦画初となる全編イタリア・ヴェネツィアロケが敢行されたのも本作の大きな特徴の1つといえるだろう。

 そもそも「場所」というのは、ドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)にとっても、大切な要素なのである。例えば、第4話の『ザ・ラン』では、「妖怪」とは「場所」に憑くものとして描かれ、第5話の『背中の正面』では「坂」とは「境目」であるとして、第8話の『ジャンケン小僧』では「辻、十字路」が「異界との交差点」として描かれるなど、さまざまな場所の特性を起点にしながら物語が展開されている。

 そして、本作において「ヴェネツィア」は、イタリアにおけるペスト(黒死病)による歴史などを交えながら「繁栄の光と死の影がある街」としてフィーチャーされている。また、見るものによって怒りの表情にも悲しみの表情にも変化するヴェネチアンマスクも重要なアイテムとして登場するなど、「相反するものの混在」がヴェネツィアという場所の特性として表現されているのだ。

 さらに、本作のメインテーマ自体も「最高の幸せは“最大の絶望”を連れてくる」であるように、二律背反といえるものが一貫した主題として見事に描きぬかれている。こういった物語としての綺麗な配置と抜け目のなさは実写版『岸辺露伴は動かない』の凄みであり、ここまでの実写化成功の要因であるともいえるだろう。

 実際に、「スタンド」をあえて可視化せずにギフトや呪いとして説明し、リアルとファンタジーの完璧な配合による、「リアリティ」を伴ったダークなサスペンスをドラマシリーズから作り上げた渡辺一貴監督が、同じく劇場版2作目となる本作でも監督を務めている。また、作品のミステリアスな雰囲気を倍増させる極上の劇伴も、ドラマシリーズから変わらずジャズミュージシャンの菊地成孔が担当しているなど、本作でも実写版『岸辺露伴は動かない』が誇る盤石の演出が施されているのだ。

 その上で、ドラマシリーズよりも目立った、映画としての本作ならではの最大のストロングポイントは、やはりイタリアロケという点にあるだろう。

 ただでさえ、真上や真下から煽られる今作のカメラワーク、ショットの構図、画角などは「ジョジョのコマ割り」を彷彿とさせ、さらに、ロングショットの際に映る、イタリアの街並み、洗練された衣装のデザイン、立ち姿は間違いのない『ジョジョ』の画面となっているのだ。

 もちろん、筆者もこれだけでは「イタリアロケが最大のストロングポイント」だとは言わない。筆者が最大のストロングポイントだと言っているのは、「字幕」なのだ。

 本作はイタリア人のキャストも多く、イタリア語のセリフも頻出するので、ところどころに日本語での字幕が入ってくる。そのため、例えば「描けない」というセリフに対しては、「描けないッ!」と字幕が入るように、字幕ならではのセリフの「ジョジョ味」を存分に味わうことができるのである。また、通常画面の下部を横に流れる字幕が、画面の横端を縦に流れるシーンもいくつかあり、その様はまさに「マンガの吹き出し」のようにも見て楽しめるのだ。こうして、いつもの実写版としての完成度の高さに、映画ならではの「ジョジョリスペクト」がふんだんに詰め込まれている。その「ハーモニー」っつーんですかあ〜、「味の調和」っつーんですかあ〜っ、たとえるなら、高森明雄の原作に対する、ちばてつやの『あしたのジョー』! なのである。

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