『都市伝説解体センター』レビュー 現代を切り取る鋭さとエンタメとしてのキャッチーさが共存した傑作ADV

『都市伝説解体センター』は、集英社ゲームズが2月13日にリリースしたミステリーアドベンチャーゲームで、開発は『和階堂真の事件簿』で知られる墓場文庫が担当している。筆者はもともとアドベンチャーゲーム、特にミステリー作品を嗜好しており、本作については緻密で滑らかなドット絵に、都市伝説というオカルトを題材にした作風に心を掴まれ発表当時から気になっていた。今回は本作のレビューを通して、『都市伝説解体センター』とはどういった作品だったのかに迫っていきたい。なお謎解きゲームというジャンルである以上ストーリーのネタバレは記事内で触れないが、作品概要やゲームの流れには触れているため留意してほしい。
「都市伝説解体センター」として怪異を調査
本作は“生まれたときから変なモノが視える”主人公「福来あざみ」が、その原因を突き止めるため藁にも縋るような気持ちで、ポスターで見かけた「都市伝説解体センター」に赴く場面からはじまる。センター長「廻屋渉」に自らの謎の力を相談する際に腰を落ち着けようと、近くにあった座った者に死をもたらす「呪いの椅子」に座る失態を犯してしまう。あざみは死を回避しようと取り組んだ調査で力あまって椅子を破壊してしまい、呪いの効果はもうないが研究用に借りていたという廻屋から修理費用1000万円を請求されてしまう。そうしてあざみはセンターの調査員として働きながら借金を返すことになり、同じく調査員の「止木休美(ジャスミン)」とともに依頼をこなしていくという導入。

廻屋の導きによって、あざみの変なモノが視える力は「過去に存在した人や物の痕跡」を視覚化する、「念視」と呼ばれる能力であることが判明。このチカラを活かして怪異が出現した現場を調査していく。ゲームプレイの流れとしてはセンター長・廻屋から依頼を受け、依頼者のもとに急行し、話を聞きながら念視を使った探索で証拠を集めて状況を把握、仮説を組み立てながら都市伝説が何に当てはまるのか「特定」していくというものだ。
都市伝説の「解体」とプレイヤーを牽引する謎
調査を進めていくなかで、たとえば「コトリバコ」をテーマとした章では、実際に都市伝説と知られているコトリバコは子どもと女性だけを呪うが、なぜか本作では男性にも症状が現れているという、実際に発生している出来事と原典との差異の原因を検証していく。そして証拠を集めきった最後はセンター名どおり、関係者を集めて都市伝説の「解体」を行う。ミステリーといってもトリック自体のハードルは低く、一本道で選択肢を間違えてもストーリーが分岐したりペナルティを受けたりすることはないため、集中を切らすことなく10時間ほどのジェットコースターのような体験が味わえるだろう。

また各章で取り扱われる都市伝説という横軸とは別に、ダークウェブに存在する掲示板「SAMEZIMA」に集う破滅願望者たちが連呼する「グレートリセット」の意味。さらに眼鏡をかけると念視が可能になるシステムの意味、表舞台には決して立たないセンター長、都市伝説を追ううちに浮かび上がる怪異や「イルミナカード」の共通点など、スリリングで読み応えのある縦軸が存在する。そして最終章でこれまでのプレイが走馬灯のように駆け巡り、違和感の点同士が脳で結びついたときにあふれ出る快感。「これを味わいたくてプレイしているのだ!」という納得に包まれる感覚は、ミステリーアドベンチャーの巨頭である『逆転裁判』や、『ダンガンロンパ』をクリアした際の高揚感に勝るとも劣らない。
現代を切り取る都市伝説とSNSの描かれ方
本作はオカルトという題材に沿った外連味ある演出に、思わず真似したくなるセンター長の解体ポーズ。そして各章の最後に挿入される美麗なピクセルアートムービーなど、アニメやドラマを彷彿とさせるキャッチーさも魅力だ。オカルトなどが題材となったタイトルは以前より多数存在し、それこそパブリッシャーの母体となった集英社では『呪術廻戦』『ダンダダン』が連載。ゲームにおいても最近では『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』に『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』などが怪異や都市伝説を扱い、言うまでもなく小説・漫画・映画など創作物においても古くから取り上げられているテーマだ。そうした土壌のおかげでユーザーのオカルト・ホラーに対するアンテナと受容体が以前より増えているからこそ、本作のように万人に届くような切り口とバランス感覚で、都市伝説を土台として利用した“外し”としてのミステリーが語れたのではないか。

『都市伝説解体センター』のもっとも白眉な点は、依頼の合間に挿入される「SNS調査」だと考えている。関連キーワードを検索して炎上している事態を追いながら、都市伝説や事件の背後に隠された真実に迫っていくが、作中で描かれているSNSの解像度が驚異的だ。悪意をもって発信される情報と踊らされる稚拙な正義感、一方からの意見を見ただけですべてを知った気になっているユーザー、インスタントに加熱するネットリンチ・炎上など、SNSの危うさがリアルに表現されており、その醜悪さは現実さながらとなっている。
正直、プレイ当初はここまで露悪的にSNSを描く必要があるのかと辟易したが、クリアしたいまではテーマの「都市伝説」と現代社会における噂が巧みに絡み合うことで、現代のホラー・怪異としての大衆の愚かさと悪意を描く物語のコアとして間違いなく必須だった。そして「探偵役」として関係者の過去を暴き真相を追求する主人公・プレイヤーと、身勝手な正義感で特定個人を晒しものにする人々にどれほどの違いがあるのかという示唆も与えてくれる。だからこそ『都市伝説解体センター』は我々が現実に感じている現代の歪みを適切に切り取った、いまだからこそプレイするべき傑作タイトルだ。
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